little treat―戦略家の場合―
プロールは黙々とコンソールの上に鋼鉄の指を走らせていた。モニターには訳の分からないグラフ、計算式、小難しい言葉
……
プロールの後ろで彼の背中にくっつくようにモニターを見つめていたは、しばらくは我慢してそれを見続けていた
が、次第にブレインサーキットが情報を処理しきれなくなって見ることを止めた。視線を彼の横顔にシフトするとぴくりと
もしない端正な横顔があった。は他者の美醜に関してほとんど関心がないのか、彼が美しいかそうでないかを
考えたことはないが、きゅっと結ばれた唇であるとか、自分を見つめるときの優しげな眼差しは好きだった。
あまりお喋りではないから、初めて会ったときは思わずラチェットの後ろに隠れてしまったが、困ったように頬を
掻いて「どうも怖がられたらしい」とラチェットに告げている姿を見てから、は態度を改めたものだった。
その後、ラチェットの計らいではプロールから「考えることとはどういうことか」という講義を受けることになり、
二人の関係はまるで先生と生徒だった。プロールは素直なを可愛がったし、も真面目で優しいプロールを
慕っていた。
「プロール」
「……なんだい?」
後ろから椅子によじ登り、ウィング部分から顔を覗かせたを振り返らずに、プロールは音声だけで応えた。カタカタ
とモニターから処理音が流れ、高速で上から下へと走っていく数値の演算に彼は集中していた。それでも、彼女の声に応えた
のは気まぐれではなく、彼なりの誠意だった。
「お仕事、がんばってます」
まるで自分が仕事をしているかのような表現にプロールはくすっと笑いを漏らし、演算を続けた。この子のたどたど
しい物言いは、ラチェットがそのままにさせているためかどうも直らない。プロールは出会ったばかりの頃に何度か
言葉遣いを改めようと指導したことがあり、その時はきちんと話せていたのだが次に会うと元に戻っているという事が
何度も続いたので、そこから指導することを止めた。まだまだ未熟なこの若いサイバトロンに色々教えていかなくては
ならないはずなのに、周りはどうも彼女を甘やかす傾向にあるのだ。
(まあ、私もそのうちの一人か)
肩に乗っかったをどけようともせずに、プロールはとにかく演算を続けた。早く終わらせて、久しぶりに”生徒”
との会話を楽しみたい。
「もうすぐ終わるから、少し待っていなさい」
「はい!」
はそれを聞くと、にっこり微笑んで――顔を見なくても、彼女が笑っているのだろうということは何となく分かる
のだ――ぱっと背中から離れた。そして、いそいそと傍に椅子を持ってきて、膝を抱えて座った。
「、待ってる」
「ああ」
***
「、終わったよ」
小一時間ほどしてプロールがを呼ぶと、椅子の上でいつのまにかスリープモードに切り替わっていた彼女は驚いて
飛び上がった。
「退屈したかい」
つんと額を指で突くと、はぶんぶん首を振って否定した。その慌てようにプロールは笑いを隠そうともせず、ぽんぽん
となだめるように頭を撫でた。は立ち上がって、プロールの膝に手を付く。見上げてくる大きなアイセンサーに例えよう
のない愛おしさを感じながら、プロールは「今日はなにかご用かな」と聞いた。
撫でられて嬉しそうにアイセンサーを細めていたは、その手を取って「うん」と笑う。
「プロール、お仕事がんばってる」
「そうかい」
「うん」
ワーカホリック――と揶揄されることをプロール自身はまったく気にしていない。仕事が彼にとってもっとも優先されるべき
事項であるし、仕事をすることが喜びであり楽しみだからだ。それ以外のプライベートな趣味が無いのかと問われるとそう
ではないのだが、わざわざ他人に言ってやることもない。
「だから、がゴホウビあげます」
「ゴホウビ?」
プロールはきょとんとした顔でを見つめる。自分の膝に甘えるようにもたれてくる彼女は、大きなアイセンサーを
こちらに向けて、にっこり笑った。ゴホウビってなんだ。
「プロール、目つむって」
「目を?」
「見えないようにするの」
「何をするんだい」
「ひみつ」
はやく切って、と可愛い生徒にせかされて、プロールは言われるがままにセンサーを遮断した。彼女の気配を何となく察する
ことはできるが、それ以上の情報はまったく感知できない。
「切ったよ」
「ホント?の見えない?」
これ何本?とおそらく指を立てて問うているのであろうの声に「見えないよ」と応える。
「じゃあ、するね」
言うなりが膝によじ登り、肩に手をかけてきた。傍から見れば恋人同士が戯れているようにしか見えない体勢に
なっているのだが、いかんせんプロールは”見えない”ことになっているからどうにもできない。困った。
「、何をするんだい」
「ないしょ」
そこからはが何をしているのか、あまり掴むことができずプロールは観念してじっと座っていた。自分が仕事を
しているときに仲間が来ることは滅多にないから、おそらく誰かに見られる心配はないだろう。
プロールがじっと座っているのを見て、は小さな唇を彼の額に寄せた。可愛らしい音がして、が唇を離すと
同時に、彼のアイセンサーに青い光が点る。
「はい、おわり」
驚いて声もでないのか、プロールは口をあけたままを見つめた。いま、何をされたのだろうか。
「」
「プロールにゴホウビです」
にっこり笑ったはプロールが驚いていることに気づいたのか、顔を覗きこんで「どうしたの?」と問うた。
「いやだった?」
「あ、いや。そういう訳じゃないんだけど」
「よかった」
はぱっと膝から飛び降りると、「それだけ」と言って走り出そうとした。予期せぬ出来事にブレインサーキットが
唸り続けているプロールは、その小さな背中に向かって思わず大きな声を出して名前を読んだ。
「なあに?」
「そ、そのゴホウビは誰に教わったんだい」
は何事か言おうとして唇を開いたがすぐに閉じて、いたずらっぽく微笑んだ。
「ないしょ」
お仕事がんばって!と言いながら、は走り出してしまった。
「まいったな……」
困ったように笑いながら額に触れる。まんざらでもない自分に呆れながらも、プロールはラチェットにだけはバレない
ようにしよう、とさっきのメモリーにロックを掛けたのだった。
***後書き***
little treatを各キャラでやったらどうなるか……と思いながら、一番手がプロールなのは私の趣味です^^
プロールいいですよ!BLではよく見かけるのに、夢だと全然ない^q^
なぜだ。声がおっさんだからか。見た目すげーかっこいいのに><
まあ無ければ自分で書けばいいわけですが。プロールってどんな子が合うんだろうか……奔放な子に振り回される感じなのかなあ〜うーん…
これシリーズものにして続けたいんですが、私が書けるキャラが貧弱すぎて泣ける^O^
あ、デストロンのヒロインでもやればいいんだ!いい考え!←